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広島高等裁判所 昭和42年(ネ)10号 判決 1969年7月24日

控訴人 第一〇号事件控訴人・第二八号事件被控訴人 大潮林業株式会社

第一〇号事件被控訴人・第二八号事件控訴人・附帯被控訴人 郷原仙次郎 外一名

被控訴人(附帯控訴人) 王子造林株式会社

主文

原判決中被控訴人の請求に関する部分を次のとおり変更する。

被控訴人と控訴人郷原、同三池との間で別紙目録<省略>記載第一の山林上の立木が被控訴人の所有であることを確認する。

被控訴人の控訴人郷原、同三池に対するその余の請求を棄却する。

控訴会社の本件控訴および当審における新請求を棄却する。

附帯控訴人の附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて参加によつて生じた部分は控訴会社の負担とし、その余はすべて控訴人郷原、同三池の連帯負担とする。

事実

第一申立

一、控訴会社分

原判決(ただし、登記手続請求部分は訴の取下により除かれる。)を取り消す。別紙目録記載第二の立木は控訴会社の所有であることを確認する。被控訴人は控訴会社が別紙目録記載第一の山林に立ち入ることおよび右地上の立木を伐採し又は搬出することを妨害してはならない。控訴人郷原が、控訴人三宅に対する熊本地方法務局所属公証人山下辰夫作成第一五、三〇五三号金銭消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基づいて、前記第二立木に対してした強制執行を許さない。

被控訴人は控訴会社に対し別紙目録記載第三の立木につき所有権移転登記手続をせよ(当審における新請求)。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人郷原、同三池および被控訴人の負担とする。

二、控訴人郷原、同三池分

原判決中控訴人郷原、同三池敗訴部分(ただし、控訴人郷原に対する山林所有権確認請求部分は訴の取下により除かれる。)を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。控訴会社の控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも披控訴人および控訴会社の負担とする。

三、被控訴人分

控訴会社および控訴人郷原同三池の控訴(控訴会社分は当審における新請求を含む。)を棄却する。控訴費用は右控訴人三名の負担とする。

原判決主文第二項につき仮執行の宣言を求める(附帯控訴分)。

第二主張

当事者の主張は、次の諸点を補正する外は、原判決記載のとおりである(ただし、原告訴訟代理人の参加の理由に対する答弁三段末行〔記録二五丁裏側五行〕の「選把」とあるのを「還択」に、参加人に対する原告の主張三の一〇行〔記録二九丁表側末行〕の「原告に」とあるのを「原告は」に各訂正する。)から、これを引用する。

一、被控訴人分

1  被控訴人は昭和二六年二月一九日訴外鹿野町から別紙目録第一記載の山林(地上の立、倒本一切を含む)等を買い受ける趣旨の売買仮契約を締結してその所有権を取得し、同年六月一四日その引渡を受け、右山林内の要所要所の立木に赤ペンキで<王>と記して明認方法を施し、その後もこれを継続して掲げ、次いで立木登記をした。

2  控訴人郷原、同三池が本件山林に入山等をしたことはなく、被控訴人はこれに入山して立木の伐採搬出をしたが、現在これに対する立入禁止仮処分を受けているため入山等を中止している。

3  控訴人郷原が本件強制執行の申立を取り下げ、その執行が解放されたことは認める。(なお、被控訴人はこの部分の訴を取り下げるというが、控訴会社〔参加人〕の同意がないので取下の効力を生じない。)

4  鹿野町と鹿野物産株式会社との間の売買の対象は伐採期間内に鹿野物産が伐採搬出した雑立木だけである。仮に一応全部の立木が売却されたものとしても、伐採期間経過後残存している立本については売買が解除となるか、鹿野町の所有に復帰したものである。

5  かりに、控訴会社が本件立木を所有していたとしても、控訴人郷原との間の即決和解によりこれを同控訴人に譲渡した。

二、控訴人郷原分

1  本件立木については、控訴会社から控訴人三池に、控訴人三池から控訴人郷原に順次譲渡が行われており、その経過は控訴人三池の主張(原判決中被告三池の原告に対する主張〔記録二〇丁表八行から二一丁表四行まで〕)と同一である。

かりに右主張の控訴会社から控訴人三池に対する譲渡が無効であるとしても、今治簡易裁判所において昭和三九年八月一七日控訴会社から控訴人郷原に右立木が和解により譲渡された(昭和三九年(イ)第五号)。

従つて、被控訴人等主張の強制執行について、控訴人郷原は昭和四四年一月二〇日右申請を取り下げ、同年三月二四日執行は解放されたので、被控訴人等の執行異議は理由がない。

2  鹿野物産株式会社は本件立木を取得した後、林道の開設、炭釜の設置、炭焼小屋の建築等をしているので、これにより立木取得につき明認方法を施したものである。

3  鹿野町と鹿野物産との間の本件立木の売買契約における伐採期間の定めは、鹿野物産と帝国薪炭統制株式会社との間で右立木の売買がなされた際に、鹿野町が明示又は黙示に伐採、製炭事業完了までの期間延長を認めた。

仮にそうでないとしても、帝国薪炭の清算として閉鎖機関整理委員会から小松百太郎が本件立木の払下を受けたのは、政府干渉の下に行われたものであり、これによつて伐採期間の約定は効力を失つた。

右主張が失当としても、昭和二〇年八月の終戦により本件立木の伐採等は不可能に陥り、この状態は昭和二三年九月頃までは継続していたものであるから、伐採期間は右三年間だけ当然延長され、その終期は昭和二七年七月八日となつた。

右主張が認められないとしても、鹿野町と小松との間で本件山林に関する伐採期間延長についての交渉が打切られ、鹿野町が被控訴人に本件山林を売却したという昭和二六年八月七日までは伐採期間が黙示的に延長されたものである。

4  控訴会社主張の詐欺の事実は否認する。仮に右詐欺の事実があつたとしても、控訴人郷原は右事実を知らなかつたから、和解の取消をもつて対抗することができない。

三、控訴会社分

1  鹿野物産株式会社は本件立木を取得した後、炭焼釜等の設備をして製炭事業に当り、帝国薪炭統制株式会社も右製炭事業を継続した。安河内源之助の設けた掲示板は被控訴人が本件山林を買い受けた当時まで存続したか明確でないが、前記炭焼釜は昭和二〇年炭焼を中止した後の現在も存続している。これは立木取得の明認方法に該当する。

2  控訴人郷原主張の和解は認める。しかし右和解は、金子幸男および司法書士川上寛が、本件山林に生立する立木は四〇万石以上あり、被控訴人が立木登記している数量を越える分につき別個に立木登記ができる、というので締結したところ、右和解調書によつては右登記は不能であり、結局金子等が控訴会社と控訴人郷原とを欺罔して和解をさせたものであるから、本訴(昭和四三年九月四日付準備書面陳述による。)において右和解の意思表示を取り消す。

第三証拠<省略>

理由

一、鹿野町がもと(昭和一八年七月九日以前)本件山林(地上立木を含む)を所有していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第一、二号証、原審証人蔵永甫彦、同桃木房人、同竹本典夫、同金沢義昌、同小池房男(第一、二回)、同千葉孝正、同見附達雄の各証言、これらにより真正に成立したと認められる甲第三号証、第六二号証を綜合すると、被控訴人主張のとおり被控訴人が鹿野町から昭和二六年二月一九日右山林等を地上立、倒木とともに買い受け、一旦、株式会社小林林業所に本件山林上の立木を売り渡したが、昭和四〇年三月一日これを小林林業所から買い戻し、その間被控訴人は昭和二六年六月一〇日頃鹿野町からその引渡を受けて要所要所の立木に赤ペンキで<王>と記入して所有権取得につき明認方法を施し、小林林業所は昭和三六年一〇月頃からその地上立木を一部伐採するとともに、右所有権の移転について登記手続(別紙目録第三の立木登記を含む)を経ている(鹿野町と被控訴人間の山林所有権移転登記を除き、登記手続の点は控訴人郷原、同三池は認め、控訴会社は明かに争わないところである。)ことが認められる。

二、そこで、控訴人等の主張する鹿野町から鹿野物産株式会社等を経て控訴会社に至る本件立木の譲渡の有無およびその効果について検討する。

1  昭和一八年七月九日に鹿野町と鹿野物産株式会社との間に本件山林の地上立木(松を含むかについては争いがある。)の売買が行われ、これについて立木伐採搬出期間として同日から昭和二四年七月八日までの六年間とする旨の約定があつたことは当事者間に争いがなく、控訴人等は右売買が地上立木一切を含むと主張するが、その証拠はなく、却つて成立に争いない丙第一一号証の供述記載およびこれによつて原本および成立の認められる丙第一号証と原審証人川俣毅の証言を綜合すると、右売買の対象は地上の松を除く雑立木に限られ、木炭原料用であつたことが認められる。

2  かように木炭原料用として伐採搬出期間を定めて雑立木の売買があつた場合には、特段の事情のない限り、売買により地上雑立木は地盤を離れて売主から買主にその所有権が移転し、伐採搬出期間の終了により残存立木は買主から売主に復帰するものと解するのが相当である。

本件においても特段の事情は認められないので右原則によるべきものであり、被控訴人の本件売買により伐採期間に伐採搬出した雑立木だけを買主が取得する、との主張は採用できない。

3  ただかような場合にも買主である鹿野物産株式会社が買受立木を他に売却した場合には、その買主との売買契約の内容如何および買主と立木を回復取得する鹿野町との間に所有権取得についての対抗要件の具備の問題が生ずることとなるので、この点を考察する。

成立に争いない甲第一九号証との対比により成立の認められる丙第二号証、原審証人佐藤伍六の証言およびこれにより成立の認められる乙第一六号証によれば、本件山林上の立、倒木は昭和二〇年三月三一日鹿野物産株式会社から帝国薪炭統制株式会社に売却され、ついで昭和二三年九月一六日に帝国薪炭(日本薪炭株式会社と商号変更)を管理する閉鎖機関整理委員会から小松百太郎に競売により譲渡されたが、その都度前掲伐採搬出期間と同一の期間が付せられたことが認められるので、小松は右期間の制限を受け期間満了の昭和二四年七月八日の経過により残存立倒木の所有権は小松から鹿野町に復帰したこととなる。

もつとも控訴人等はその後小松から木村辰治に(丙第五号証によりその時期は昭和二五年一二月三〇日を主張するものと考えられる。)、木村から福富芳正に、昭和二六年六月一三日福富から安河内源之助に、同月二〇日安河内から川崎力三に、同年七月二六日に川崎から控訴会社に順次本件立倒木が譲渡され、安河内が買受後同人の所有である旨を記載した木製掲示板五個を本件山林内に設けたと主張するが、右掲示板設置の事実を認めるに足る証拠はない。

そうすると、仮に小松から以後の譲渡契約があり、これにつき伐採搬出期間の制限がなく、従つて小松から鹿野町に対する立倒木の復帰と木村に対するその譲渡が二重譲渡に当るとしても、木村以降の取得につきその対抗要件の具備が認められないのに鹿野町からこれと地盤の山林とを取得した被控訴人が前一、認定のとおり明認方法および登記を備えているから、これにより被控訴人が右立倒木の所有権取得者となる。この点につき控訴人等は鹿野物産株式会社および帝国薪炭統制株式会社の設けた炭焼釜を明認方法として主張しているがこれは前記二重譲渡以前のことに属するので右結論に影響を及ぼさない。

4  右に関連して、控訴人郷原は右伐採搬出期間の延長等を主張しているので考察する。

鹿野物産株式会社と帝国薪炭統制株式会社との間で本件立木の売買がなされたとき鹿野町が期間延長を承認したとの主張については、これを認めるに足る証拠がなく、帝国薪炭(日本薪炭株式会社と商号を変更)から閉鎖機関整理委員会による小松百太郎への本件立木の払下により伐採搬出期間に関する約定が失効したとの主張はその限拠がない。

また、終戦による伐採不能に基づく昭和二七年七月八日までの期間延長および小松百太郎と鹿野町との期間延長交渉による昭和二六年八月七日までの期間延長の主張については、前者は採用しがたく、後者についてはその証明がない。

三、以上の次第で被控訴人の本件立木の所有権確認の請求は正当であるが、控訴会社の請求はすべて控訴会社に本件立木の所有権があることを基本とするものであるから失当である。

被控訴人は更に控訴人三池に対して本件山林の所有権確認、控訴人三池、同郷原に対して同控訴人等が本件山林へ立ち入り立木を伐採、搬出することおよび被控訴人が右立木を伐採、搬出するのを妨害することの各禁止を求めており、右控訴人等が被控訴人が本件立木を所有することを否認し、更に後記の如く控訴人郷原が右立木を控訴人三池が所有するとしてその差押をした事実があるが、右控訴人等が従来本件山林に入山したことがないことは被控訴人も自ら認めているところであり、同控訴人等が被控訴人の本件山林の所有を争い、近い将来に前記行為に出ようとしているとの証拠はない(前掲事実は右控訴人等が右行為に出るとの根拠となすに足りない。)。また控訴人郷原に対し本件立木に対する強制執行の禁止を求めており、被控訴人主張のとおり控訴人郷原が控訴人三池に対する公正証書の執行力ある正本によつて本件立木に対し強制執行をしたことは当事者間に争いないところであるが、当裁判所が真正に成立したと認める丁第二号証の一ないし三に弁論の経過を綜合すると、控訴人郷原は右強制執行申請を昭和四四年一月二〇日頃取り下げ、差押の解放手続をし、再び同様の強制執行をするものとは認められない。

従つて被控訴人の右各請求(従つて関連する仮執行宣言申立)は理由がない。

四、そうすると原判決中被控訴人の控訴人郷原、同三池に対する請求を全部認容した部分は一部失当であるのでこれを変更することとし、控訴会社の請求を棄却した部分は相当であるので同控訴人の控訴を棄却し、更に同控訴人の当審における新請求および被控訴人の附帯控訴は棄却すべきものである。

よつて民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 村岡二郎 丸山明)

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